フッ化物(フッ素)は虫歯予防と関連して語られる事が多く、耳にする機会も多いと思います。しかし実はそれほど詳しくはないという方も多いのではないでしょうか。
日本では一般的に「フッ素」という呼称が用いられ、近年では広く知られるようになっております。例えば市販の歯磨剤の多くに添加されており、最も気軽に出来る虫歯予防のひとつとなっております。
今回はフッ化物に関し、日本における予防歯科での活用法及び海外での事例をご紹介いたします。ぜひフッ化物の知識を高め、予防歯科にご活用下さい。
この記事のポイント
- フッ化物(フッ素)とはどのような物質?
- フッ化物は安全な物質なのかわかる
- フッ化物の利用方法についてわかる
フッ化物(フッ素)とは
天然に存在する元素の一つです。フッ素単体としては存在しません。
クラーク数表にあるように、フッ素は、17番目のところにFというのがあります。このFがフッ素の元素記号です。
0.03と書いてあるのは、地殻を構成している量として全体の0.03%であるということです。
すなわち、フッ素は地球の地殻を構成する元素のうちで、量の多いほうから17番目にある元素なのです。
【クラーク数表】
フッ化物とフッ素の用語の違い
虫歯予防に使用するフッ素とは、フッ化ナトリウム(NaF)のことです。
そのため、フッ素(F)単体ではなく化合物としての呼び方「フッ化物」と呼びます。
フッ化物の特徴
フッ化物には、歯に対して耐酸性向上させ、再石灰化を促進する効果があります。また、口腔内環境に対しては、虫歯原因菌の酸産生能を抑制する働きがあります。簡潔に言うと歯にバリアをはるイメージです。
フッ化物の安全性
世界保健機構(WHO)、食糧農業機構(FAO)、アメリカ合衆国食品医療品局(FDA)など多くの専門機関では、フッ素は骨の形成や虫歯予防に欠かせない必須元素(必要な栄養素)として捉えています。
日本ではフッ化物に関する誤解が根強く残っていますが、このことが、フッ化物の普及を著しく遅らせる要因となりました。
フッ化物の利用方法
日本における利用方法
フッ化物配合歯磨剤
一般に市販されているほとんどの歯磨剤にフッ化ナトリウム(NaF)かモノフルオルリン酸ナトリウム(MFP)が配合されています。
海外ではフッ素濃度が高く配合された歯磨剤も売られていますが、日本で市販されている歯磨剤は薬事法により、フッ素濃度1450ppm以下と定められています。
中には、フッ素濃度が500ppm程度の製品もありますが、最近の研究によってフッ化物による虫歯予防効果には、フッ素濃度が重要であり、500ppm以下の製品についてはその効果が疑問視されています。
フッ化物配合歯磨剤はフッ素濃度500ppm以上の製品を使用し、使用量・使用方法を守って歯を磨きましょう。
また、フッ化物配合歯磨剤の製品としてはペースト状のものの他に、泡状、スプレー状のものもあります。泡状、スプレー状の歯磨剤は、ペースト状の歯磨剤に比べフッ素の取り込みが早いため、歯磨きの時間が十分に取れない低年齢児や障害のある方におすすめです。
フッ素ジェル
フッ化物配合歯磨剤でのブラッシング後にフッ素ジェルを塗布する方法(ダブルブラッシング)が効果的です。
フッ化物は、様々の方法を組み合わせて使用することが推奨されています。
フッ素洗口
フッ化物洗口法はフッ化物洗口剤を口に含み30秒間ぶくぶくうがいをして吐き出します。
日本では、製品として発売されているものすべて、歯科医院で処方されます。歯科医師および歯科衛生士によるフッ化物洗口指導を受け、家庭で実施するか、小・中学校などで集団洗口をするのが主流です。
2015年9月18日に薬剤師のいる薬局・ドラッグストアでフッ化物配合洗口剤『エフコート』フッ素濃度225ppmが発売されました。
これまで医療用医薬品として実施されてきたフッ化物洗口は、小・中学校などでの集団洗口により、高い虫歯予防効果が報告されています。
フッ化物は水に溶けやすいため、フッ化物応用後は30分以上、可能であればそれ以上の時間、うがいや飲食を控えることが大切です。それでも唾液によってフッ化物は薄まります。
近年フッ化物洗口は、低濃度で使用しても長時間お口の中に留まることが報告されています。
その他
フッ化物添加デンタルフロスは、隣接面(歯と歯の間)の虫歯予防に有効です。
海外における特徴的な利用方法
海外では、フッ素は骨や歯などの硬組織に存在し、虫歯予防効果に優れていることから必須栄養素と考えられています。
水道水フロリデーション
積極的にフッ化物を摂取できる水道水フロリデーションといい、家庭の水道水にフッ化物をいれ、飲料として摂取する方法です。
フッ化物配合錠剤
ヨーロッパでは、フッ化物配合の錠剤が薬局で販売されています。タブレットの感覚で摂取します。
フッ化物添加食塩
こちらもヨーロッパの岩塩にはフッ化物が混ざっており、食事で使用する塩分とともにフッ化物を取り入れています。
そのほか、フッ化物配合ミルク、フッ化物添加飲料水など、日本では行われていない方法でフッ化物を摂取しています。
日本と海外での利用方法の違い
「甘いものを食べると虫歯になる」と聞いたことがある人は多いと思いますが、日本は海外に比べて糖分摂取量が少ないです。しかし、DMF歯数(虫歯経験歯数)は高いです。
そのため、糖分摂取制限では、虫歯予防に限界があります。
日本は、先進国の中でも砂糖摂取量は圧倒的に少ないにもかかわらず虫歯が多いのが現状です。
このことから、甘いものを食べるのを禁止する指導だけでは、虫歯は減少しないことが示唆されます。他国は、フッ化物の導入が行き届いていることもあり、砂糖摂取量が多くても虫歯になりにくいこともこのデータから読み取れます。
まとめ
フッ化物の応用は、EBM(科学的根拠)に基づいた虫歯予防方法と言えます。
近年、各国において蝕罹患率に地域差があり健康格差(不公平で理にかなわない健康差異)が問題として認識されるようになりました。2012年7月に厚生労働省が発表した「健康日本21」に健康格差の縮小が盛り込まれたように、すべての国民における歯科疾患の予防が期待される中、フッ化物の応用は最も安全で有効な虫歯予防方法なので積極的にフッ化物を応用していきたいですね。