歯科治療での麻酔を経験したことがある方は多いと思います。
治療をする前にいきなり麻酔をする先生は少なくなりましたが、麻酔について詳しく説明を受けた経験は少ないですよね。麻酔を受ける患者さんはいろいろな不安が頭によぎっていませんか?痛くない治療をするのに、なぜ麻酔が必要なのか?痛くない麻酔はできないの?このあと、食事はできるかしら?麻酔が切れた後、どんな痛みがでるのかしら?など、そんな不安を少しでも解消できたらと思います。
麻酔時の痛みは大きく分けて2種類
麻酔時の痛みは、大きく分けて2種類あります。
刺痛:針を刺すときの「チクッ」とした痛み。
圧痛:麻酔液を入れるときの痛み。
それぞれの痛みについて解説します。
「刺痛」
刺痛は針を皮膚に刺す事で起こる痛みです。
歯肉や粘膜には多くの神経が存在します。針が刺さる時の刺激のため、瞬間的に「チクッ」とした痛みを感じることがあります。痛みを軽減させるよう歯肉や粘膜に表面麻酔をして、効いてきたころに針を入れる事で痛みを少なくできます。
「圧痛」
圧痛は麻酔液を入れる時に圧迫で痛みを感じることがあります。これは麻酔液を入れるスピードが速すぎたり、一定のスピードで入っていなかったりすることで歯肉や粘膜が圧迫され、痛みが起こる時があります。
麻酔の痛みを軽減するための3つの工夫
表面に麻酔をする
表面麻酔とは歯肉や粘膜の表面にかける麻酔です。
クリームタイプやジェル状のものを直接塗るかコットンなどに染み込ませて接触させます。そのまま少し時間をおくことにより「刺痛」を軽減させます。
麻酔の効きめは薄いのですが、表面麻酔は麻酔針による痛みを少しでも抑える目的で処置されます。歯肉や粘膜の神経が緩やかに麻痺していきます。
電動麻酔注射器(オーラスター®)を使う
歯科医院で歯肉に注射をすることを「局所麻酔」といいます。局所に直接麻酔を効かせて、一時的に感覚を消失させます。電動麻酔器は常に一定の速度で自動で麻酔液を注入する事ができるため圧痛を軽減することができます。手動式の麻酔器では、液を入れる時の圧力やスピードにバラつきが出たり、注射をするときに力を入れることで手が震え、その震えで痛みを感じる方もいます。
麻酔薬を温める
麻酔液が冷えていると、歯肉や粘膜に麻酔液を入れた時に痛みを感じる事があります。それを防止するために麻酔液を人の体温と同じくらいに温めたもので麻酔をするとその痛みを軽減できます。
麻酔液を温めるための機器もあります。
麻酔が効いている時間はどのくらい?
大人は約1~3時間
大人の場合は、約1~3時間程度、麻酔が効いています。
これは個人差や使用した麻酔の種類、本数、麻酔をした場所にもよって異なってきます。
歯科医院で使用する麻酔は、歯の周りごとしびれさせることで治療を行います。そのため治療が終わってもしびれている感覚は残っています。しばらくすると次第にしびれが取れ、感覚も戻ってきます。
子供は約1~2時間
基本的に子供の治療では麻酔を使うことが少なく、そのまま歯を削っても痛みが少ないと言われています。
麻酔の針の痛みによって、歯科医院への恐怖がでてしまい、その後の治療が困難になることも考えられます。
どうしてもの場合は麻酔をしますが、その時は表面麻酔を使ったりしてなるべくストレスを与えないように処置をします。子供への麻酔は大人の半分以下の量で使用します。量が少ないので、大人よりも短時間で切れてきます。麻酔のしびれや違和感は子供にとって、不快に感じるので、
治療後のケアをしっかりすることが大事です。麻酔は約1~2時間程度効いています。
しびれが続く
歯科医院で使用する麻酔の製剤は安全なものを使用していますが、個人差でしびれが続く場合があります。次第に感覚は戻ってきますので、安心してください。
もし、長期的なしびれや麻痺など違和感がありましたら、主治医へご連絡していただくことをお勧めします。
親知らずやインプラント治療は約5~6時間
親知らずの抜歯に伴う麻酔は、まれに親知らずが顎の骨の深くにある場合、通常の麻酔では効かないことがあります。またインプラント治療や骨移植などの外科治療の際、下顎孔伝達麻酔(かがくこうでんたつますい)という麻酔を行います。顎の骨の神経の根元に麻酔をする方法で、広範囲に麻酔を聞かせることができます。麻酔の効果は約5~6時間程度です。
麻酔の後に注意する4つのこと
食事は麻酔の効果が切れるまで待つ
麻酔がまだ効いているときに食事をしようとすると、誤って唇を噛んでしまったり、頬の粘膜を噛んで傷をつけてしまうことがあります。また冷たいものや熱いものの感覚も麻痺している状態ですので、熱いもので火傷をすることもあります。そのため食事は、麻酔が切れるまで待つようにしてください。どうしても食事をとらなければならないときには、麻酔をしていない反対側の歯を使うか、軟らかい食べ物をとるようにしてください。
唇、頬を噛まないように気をつける
麻酔が効いているときに誤って唇や頬の粘膜をかんでしまい、大きく腫れてしまうことがあります。麻酔が効いていると唇を噛んでも痛くないため、何度も噛んでしまいます。
うっかり噛んでしまい、唇、頬の粘膜などが腫れてしまった場合には、安静にして、刺激しないようにしてください。
火傷に気をつける
麻酔が効いている際には、痛みを感じないだけでなく、温度差のあるものも感じません。
熱い食べ物や飲み物は火傷をしてしまうことがあります。十分ご注意ください。
麻酔効いているところを触らない
麻酔が切れかかると、かゆみや違和感を感じることがあります。その際に爪や指などで触ったり、引っかいてしまわないよう注意してください。また、感覚がない傷口を触ることによって、バイ菌が入ったり、気づかないうちに傷が大きく開いたりする事があります。
麻酔が切れた後の痛みへの対処方法
鎮痛剤を服用する
治療後に麻酔が切れはじめると、痛みが出ることがあります。
痛みが心配であれば、早めに痛み止めを飲んでください。歯科医院で出された痛み止めや市販の痛み止めを飲むようにしてください。
場合によっては感染予防の為、抗生剤も処方されると思います。薬の用法、用量を守っていただき服用してください。
麻酔の針を刺したところが口内炎になった場合
麻酔は針を歯肉に刺します。その際に、歯肉に傷がつくことがあります。
口腔内にはたくさんの細菌がいます。そこへ細菌が傷口に侵入すると、口内炎になることがあります。
唇や頬を誤って噛んだ場合も口内炎ができる時があります。口内炎は触ると痛いので、塗り薬を歯科医院で処方してもらうか、市販のケナログ等を一日に数回塗るのも効果的で痛みが軽減されます。
できてしまった口内炎の部分にはなるべく刺激を与えないように、歯ブラシの毛先などがあたらないように気をつけてください。
麻酔をした場所を押すと痛い
麻酔をする際には麻酔針を歯肉や頬の粘膜に、麻酔が効きにくい場所には顎の骨の神経にきかせます。その時、針が骨を傷つけるため、麻酔の針を刺した場所を押すと、痛みがある事があります。ズキズキする痛みや痛痒さ、違和感など症状は様々です。長くても2週間程度で痛みは引いてきます。
痛みが続く場合には、すぐに主治医に連絡をとり症状を伝えることをおすすめします。
麻酔が効かないことがある3つの理由
下顎臼歯部への浸潤麻酔は骨が緻密であり麻酔薬が浸潤しにくい
虫歯の治療や抜歯を行う際の麻酔は上の歯に比べ、下の奥歯は、堅く密度の高い骨の中に埋まってます。
したがって麻酔液が到達しにくいことがあります。麻酔液の量を増やしたり、麻酔の効いてくる時間を長くおくことで麻酔が効いてきます。
化膿性の炎症(うみがでるなどの症状)がある場合
麻酔液はアルカリ性です。虫歯で細菌が神経まで達しているときや、歯周病により急激に歯茎に炎症が起きたときは酸性に傾いています。
また、歯根の先の膿の袋の中で強い炎症があるところも酸性になります。
炎症が起きているところに麻酔をすると中和されて麻酔の効きが悪くなってしまいます。
あと、炎症の部分は血流が増加するため、麻酔の液がその部分に留まりにくいと言われています。その場合は無理に治療を進めず、抗生剤を服用してもらい、炎症を抑えてから処置をすると麻酔の効果が発揮できます。
麻酔の種類について
麻酔にもいろいろな種類がありますので、ここでは麻酔の種類についてまとめます。
浸潤麻酔
麻酔液を歯肉に注入して、注入部分とその麻酔液が浸透したところの感覚を麻痺させ、歯の神経まで麻酔を浸潤させる麻酔法です。歯科治療で最も多用されている方法です。虫歯や歯周病治療など、いろいろな治療で活用されています。
直接針を歯肉に刺すので、「チクッ」とした痛みがありますが、表面麻酔と併用すると痛みが和らぎます。
麻酔液の中には麻酔効果を持続させ、効果を高めるために血管収縮薬(アドレナリン)というものがはいっています。血管を収縮させて、麻酔液が注入部分から広がるのを防ぎ、患部へとどまる効果があります。
ただし、心疾患や高血圧の方に使用すると、まれに動悸や血圧の上昇がみられる場合があります。アドレナリンが含まれていない麻酔液もありますので、主治医に相談してください。
伝達麻酔
下の親知らずを抜歯する際など麻酔が比較的効きにくい場合があります。
浸潤麻酔に加えて伝達麻酔という方法を用いる事により、奥歯や舌、唇など広範囲に効きます。
神経の根元に麻酔する事により、麻酔効果が長く続くため治療後の痛みが気にならなくなります。
麻酔の効果時間は浸潤麻酔より長くなります。鎮痛剤の量を減らせるというメリットもあります。
静脈内鎮静法
点滴で麻酔薬を静脈に投与し麻酔を行う静脈内鎮静法という麻酔があります。
静脈内鎮静法では、意識はあるけれどほとんど眠っているような状態になります。そのため治療時の不快な痛みや振動・音などがあまり気にならないため、快適に治療を受けることができます。
歯科治療が恐いかたやインプラント等のオペの際に行うといい方法です。
静脈内鎮静法は全身麻酔とは違って意識が完全になくなることはありません。そのため通常の局所麻酔も併用します。
注意点として、麻酔医による全身管理が必要となります。
ただ、意識あるため問い掛けには反応できますし、体の防御反射も保たれているため安全性は高いと考えられます。
笑気麻酔
笑気麻酔とは恐怖心が強い人、治療のストレスで悪化が考えられる病気の人(心臓病や高血圧)などに使用します。
高濃度の酸素と亜酸化窒素から構成されるガスで、鎮静や睡眠、鎮痛作用が期待できます。
気持ちを落ち着かせる効果がありますので、不安感や恐怖心などのストレスを和らげることができます。
専用のマスクで鼻から吸引するだけなので、一般の歯科医院でも広く活用されています。
笑気の吸引を停止すれば、すぐに普段の状態に戻れる点も大きなメリットいえます。治療は笑気ガスを吸入しながらとなります。
局所麻酔の胎児への影響
ほぼ心配ないといわれていますが、担当医とよくご相談していただく事をお勧めいたします。
持続的な歯痛や感染源を放置するほうが問題と考えることがあります。
妊娠する前に治療をすませておくか、安定期に入ってから治療を進めていくか等、口腔内の状況を担当医と確認していただくことが大切です。
局所麻酔の全身的偶発症
神経性ショック(疼痛性ショック、心因性ショック)
歯科治療中に起こりえる可能性が高いものです。歯科治療に対する不安・恐怖心、緊張などの精神的ストレスや痛み刺激により迷走神経が緊張して、心拍数、血圧が減少します。顔面蒼白、嘔吐、冷や汗、意識障害、血圧低下、除脈などが現れます。
過換気症候群
きっかけは麻酔の際の緊張で息づかいが荒くなり、神経性ショックと似た症状です。恐怖、不安や極度の緊張などから過呼吸になります。血液中の二酸化炭素分圧が低下すると脳血管が収縮、脳血流が減少して意識消失が起ります。ゆっくりと呼吸をすることが第一です。その他の方法としてドラマ等でみられるようなシーン(紙袋やビニール袋などを口に当て、吐いた息を再度吸う)を行うことで楽になります。
局所麻酔中毒
局所麻酔中毒は投与量に関係なく発現します。一般的に局所麻酔中毒は過剰投与が原因となりますが、局所麻酔を血管内に誤注入した場合は、局所麻酔薬の血中濃度が急激に上昇するため、少量の麻酔薬でも発現することがあります。
アナフィラキシーショック
麻酔の偶発症で最も危険だと言われています。麻酔後に、悪心、悪寒、めまい、血圧低下、頻脈、顔面蒼白などが現れます。まず第一に救急車を呼ぶことが先決です。可能であれば、仰向けに骨盤取り頭を下にする体制をとり、酸素吸入やAEDの装着、モニタリングを行います。
まとめ
歯科治療で麻酔は使用頻度が高く、そのため患者さんは麻酔をするたびに怖い思いや痛い思いをされてきたと思います。
不安に思われる内容もあったと思いますが、麻酔にたいして不安に感じていた方が少しでも安心していただけることが必要と思いまとめてみました。
できれば、麻酔や治療をしないためにも定期的な検診やメンテナンス(クリーニング)を受けていただき、いつまでも快適な口腔内で美味しく食事ができて、幸せな人生を送っていただきたいと思います。