妊婦が歯医者で受けられる治療と気を付けるべき注意点

妊娠中はお腹にいる赤ちゃんへの影響を考えると、歯医者に行って治療を受けても大丈夫なのか不安に感じている人も多いのではないでしょうか。

麻酔やレントゲン撮影は体に影響がある?など、妊娠中の治療は心配なことが多いですよね。

妊娠中はホルモンバランスの影響で身体も大きく変化し、歯周病や歯肉炎などお口のトラブルも増えてしまいますので、その場合はきちんとした治療が必要になります。

今回は、安心して出産を迎えられるよう妊娠中の治療と、様々なお口トラブルについて解説します。ぜひ参考にしてください。

※一般的な情報をお伝えいたします。お体の状態は1人ずつ異なりますので、治療を受ける際は妊娠していることを歯科医師または歯科衛生士にお伝えください。

この記事のポイント

  • 妊婦の歯医者受診。妊娠週数別の注意点
  • 妊娠中の様々な治療や使用する薬の影響
  • お口のトラブルをふせぐためにできること
目次

妊娠中でも歯科治療を受けられる!

妊娠中でも歯科治療は受けられます。

赤ちゃんへの影響など不安に思われる方もたくさんいらっしゃると思いますが、安全に配慮して治療を行えば大きな影響はありません。

基本的に治療が受けられない時期はありませんが、なるべく妊娠初期や後期では応急処置を行い、比較的体調が落ち着いた妊娠中期や出産後のタイミングにしっかりとした治療を受ける事をお勧めします。

虫歯治療や歯周病治療に関わらず、体調が落ち着いている時期にすすめておき出産前には治療を終えるのがベストです。なるべく安定期とよばれる妊娠中期(1627週)に治療を受けましょう。

これから妊娠を計画される場合は、妊娠前に定期健診を受け、親知らずや他の歯の虫歯や腫れなどをチェックしてもらい妊娠前に必要な抜歯は済ませておけば、安心して出産までの妊娠生活を送れます。

妊娠中の受診時期別の注意点

妊娠初期

妊娠初期は放射線の感受性が高いため、レントゲン撮影などには注意が必要です。

ただし敏感になりすぎていると正確な診断や治療が受けられない事もありますので、かかりつけ医とよく相談したうえで治療を進めましょう。

歯科医院で使われているレントゲン撮影の、エックス線装置は局所の撮影をするものなので被ばく量は極めて低く、またデジタルレントゲン装置の場合は従来のエックス線装置に比べ1/10とさらに被ばく量を軽減できます。

妊娠初期はつわり等で体調的にも辛い時期でもあります。歯医者の薬品のにおいが気になる方、口の中に器具が入るのも苦手に感じる方もいると思います。

歯科治療における緊張やストレスなどの不安もありますので、なるべく治療は応急処置にとどめ安定期に入ってからしっかりとした治療を受けましょう。

妊娠中期

この時期はだんだんと体調も安定し、つわりも落ち着いた時期となりますので特別な事がなければ、ほとんどの歯科治療を受けていただいて問題ありません。

地域によっては妊婦検診にプラスして歯科検診を推奨するところもあると思いますのでこの時期に受診すると良いでしょう。

なるべく出産前の安定したこの時期にしっかりと虫歯治療、歯周病治療を受けベストな状態で出産に備える事をオススメします。

特にホルモンバランスの影響で歯肉の炎症が起きやすくなっており、歯周病になりやすく進行しやすい時期です。歯周病は早産や低体重児出産のリスクを高くしてしまいます。

妊娠中期にお口の中の状態を健康にしておくことは、生まれてくる赤ちゃんのためにもなりますので、これまで歯科医院を受診する時間が取れなかった方も、歯科受診をしてみてください。

赤ちゃんへ虫歯がうつるリスクについては、「赤ちゃんに虫歯をうつさないために知っておくべき4つのこと」をご覧ください。

妊娠後期

この時期はお腹も大きくなり仰向けで治療を受けると圧迫され負担がかかり過ぎてしまいます。

治療が受けられない事はないですが、この時期の治療は応急処置にとどめ出産後にしっかりとした治療を受ける事をおすすめします。出産後はなかなか気軽に外出することが難しくなるので、産後に治療を再開する場合の計画・子連れでの通院の可否など事前に説明を受けておくとよいでしょう。

妊娠中の麻酔について

歯科で使用する麻酔は局所的な麻酔なのでほぼ影響はないと考えられます。

痛みによるストレスを考えると、適切に麻酔を使用することで母子ともに身体への負担を軽減できます。

麻酔薬について不安や疑問がある場合は事前に相談しましょう。

歯科で一般的に使用されている局所麻酔の種類

2%塩酸リドカイン(商品名:オーラ注、歯科用キシロカイン)

含有血管収縮薬:アドレナリン酒石酸水素塩、アドレナリン

2%塩酸リドカインはもっともよく使われている麻酔薬で麻酔作用発現時間が早く、持続時間が長いものになります。こちらは通常の使用量であれば問題がないと考えられています。

3%塩酸プロピトカイン(商品名:歯科用シタネストオクタプレシン)

含有血管収縮薬:フェリプレシン等があります。

3%塩酸プロピトカインは高血圧や心疾患など血管収縮薬効果の高いエビネフリンやアドレナリン含有の麻酔薬(オーラ注やキシロカイン)を使用できない方に使われています。

プロピトカインは胎盤通過性を不安視される事もありますが使用量を加減すればほぼ問題なく使用することができます。

歯科用シタネスト・オクタプレシン(3%塩酸プロピトカイン)に含有されている血管収縮薬フェリプレシンには軽度な分娩促進作用、子宮収縮作用があるため妊娠後期では避けた方がよいと考えられています。

妊娠中のレントゲン撮影について

妊娠中のレントゲン撮影で、赤ちゃんに影響が出ることはほぼないと言えます。

妊娠初期は放射線感受性が強い時期ではありますが、被ばくを怖がりレントゲン撮影をしないと適切な診断や治療が受けられない可能性もあるため歯科医と相談したうえで必要な場合はレントゲンによる診断を受ける事をオススメします。

歯科で使われているエックス線装置は局所撮影を行うものであり医科で使用されている胸部エックス線撮影装置に比べ被ばく量は1/3~1/10とかなり低くなっています。またデジタルエックス線の場合は従来のものに比べ1/10と更に被ばくは抑えられます。

レントゲン撮影を行う際には鉛の入った防護エプロンを着用するため胎児への直接的な被ばくは避けられます。

妊娠中の痛み止め薬について

妊娠中の服用薬については十分注意が必要と考えます。

抗炎症薬、鎮痛剤でよく使われているもの(アスピリン、ロキソニン、ボルタレンなど)の中には妊娠中は注意が必要な種類もあります。

妊娠中やむを得ず急性症状を抑えるため鎮痛剤を服用する場合は、妊娠中比較的安全と言われているアセトアミノフェン(カロナールなど)が良いと言われていますが薬の処方が必要な場合は、担当医師に確認をしてもらいましょう。

市販薬などでも比較的安全と言われている鎮痛剤もありますが、自己判断で服用せず歯科医院などで相談のうえ安全を考慮し服用しましょう。

妊娠中の抜歯について

どうしても痛みや腫れなどの急性症状が強く抜歯せざるを得ない場合は抜歯を行う事もありますが積極的には抜歯をせず経過観察をするケースが多くみられます。

抜歯をしてはいけないという訳ではありませんが、抜歯後は鎮痛消炎剤、抗生物質の服用が必要な場合があり妊娠中はなるべく避けた方がよいと考えられています。

親知らずなどの抜歯は妊娠中なるべく応急処置にとどめ、出産後など安定したら抜歯をする方がよいです

妊娠中におこりやすいお口の中のトラブル

妊娠中はつわりがあったりホルモンバランスが崩れたりと、お口のトラブルが起きやすい時期です。

つわりでは気持ちが悪くて歯を磨くことが困難なため、妊娠性歯肉炎などの炎症症状が起こりやすいと言われています。

唾液の性状も変わり、唾液の量が減る傾向にあるため唾液の働きの自浄作用が低下し、虫歯や歯周病になる危険性も上がります。また食べ物の嗜好も変わり特定のモノを好むこともあるため、なかでも甘いものは虫歯のリスクを踏まえ気を付けなければいけません。

トラブルを防ぐためにできること

お口のトラブル防止のためにできる事は、かかりつけ歯科医院において担当医や担当歯科衛生士と相談のうえ、妊婦さん個人にそれぞれにあった方法でケアを行う事です。

妊娠期の体調などを考慮し、妊娠初期のつらい時期のケア方法のアドバイスをもらうことで、トラブル回避につながります。

また、定期的なクリーニングなどを受けることで、自分自身で磨きにくい部分のケアをプロに任せることもトラブル防止につながります。

妊娠を希望される方の場合は、事前に定期健診を受診し、虫歯や歯周病の検査をしてもらい、妊娠前に虫歯治療、歯周病治療を徹底して受けた方が良いでしょう。

歯周病菌、虫歯菌と妊婦さんとの関わりとして、早産や低体重児出産の傾向にあるなど、研究で明らかになっています。

安心して出産を迎えられるよう妊娠前、妊娠中、出産後ともに定期検診を受けられるとよいでしょう。

虫歯治療の前にやっておくこと

産婦人科の先生に報告しておく

妊娠中の歯科治療に関して処方薬が出る場合など、産婦人科の医師と連携をとる必要がある場合があります。

担当の産婦人科の先生へ事前に歯科治療を受ける事を相談し、何かあった時は連携が取れる体制を整えておきましょう。

歯科医院で妊娠していることを伝える

妊娠していることを考慮して安心安全な歯科治療を受けるため事前に妊娠していることを伝えましょう。

問診票など事前に記入する場合もありますが、元々定期的に受診している歯科医院の場合などは受付で伝えていただくか診療に当たる担当歯科医師、歯科衛生士にお伝えください。

また妊娠希望があり確定はしていないが妊娠している可能性がある場合も事前にお伝えください。

母子健康手帳を持参する

母子健康手帳には妊娠中と産後の歯の状態を記入するページがあります。

妊娠中の歯の健康状態を管理することに加え、妊婦さん自身の健康状態を把握して治療が行える事もあり定期検診や歯科治療を受ける場合が必ず母子健康手帳を持参してください。

出産後、赤ちゃんの歯の検診なども母子手帳に記録していくので、歯医者には保険証同様しばらく持参するとよいでしょう。

また通院中の産婦人科への問い合わせが必要な場合も役立ちます。

ラクな姿勢で治療を受ける

特に妊娠後期ではお腹が大きくなるため仰向けの姿勢では圧迫され苦しい場合があります。

辛い態勢で治療を受けていると仰臥(ぎょうが)位(い)性(せい)低血圧(ていけつあつ)症候群(しょうこうぐん)が起き悪心、嘔吐、冷や汗、めまいなどが様々な症状が起きる可能性があります。歯科医院によってはクッションや毛布などを貸出して楽な姿勢をとりやすいように工夫している所もあります。

もしも気持ち悪くなってしまった場合は我慢せず状況を伝え回復するような態勢に変えてもらいましょう。

まとめ

妊娠中はとくに歯科の治療は受けられるのか?レントゲン、麻酔はどうなの?と不安がたくさんあると思います。様々なネットワークで情報が流れていると思いますが、不安な場合は自己判断せずにかかりつけ歯科医、歯科衛生士に相談してください。

出産後は育児に奮闘し、なかなか通院する時間がつくりにくくなってしまうので、できる限り出産までに治療が終われるとよいでしょう。

安心して出産できるよう妊娠中の不安や疑問を解決しましょう。

記事監修

小野澤 彰/歯科医師

小野澤 彰

歯科医師・AOBIデンタルクリニック院長

  • 1996年 東京歯科大学卒業
  • 1996~1998年 東京医科歯科大学研修医
  • 1998~2002年 都内歯科医院勤務
  • 2002年4月1日 歯科オノザワ開院
  • 2024年5月1日 AOBIデンタルクリニックに改称

詳細プロフィール

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